町工場などが小さなコマに技術の粋を注ぎ込み、全国一を競う「全日本製造業コマ大戦」。その強豪として知られるのが、山口県下松市の「増田工作所」だ。半導体製造装置の部品加工で培った技術力が、相手の攻撃にしぶとく耐えるユニークなコマを誕生させた。
「相手がどんなコマを出すかは対決直前まで分からない。まさにだまし合いですね」
工場の一角に設けた直径25センチの土俵。大きさや形の異なるコマ同士を指先で回して戦わせながら、増田亮さん(40)と弟の徹さん(39)が「コマ大戦」のだいご味を教えてくれた。
中小製造業の技術力をアピールし、士気の向上につなげようと、「大戦」が始まったのは2012年から。コマは静止状態で直径2センチ以下、高さ6センチ以内。材質や重さ、形は自由。先に止まるか、土俵の外に出ると負けで、2連勝すれば勝者となる。
ルールが単純な分、創意工夫の幅がとても広い。回転時にプロペラのように大きな羽が広がって変形するなど、固定観念にとらわれない奇抜なタイプもしばしば登場するという。
知り合いに勧められ、徹さんが初めて参戦したのは13年のことだ。以来、兄弟で出場を重ね、17年度には年間ランキングで全国3位に。その年、群馬県であった「両毛場所」の決勝で初の兄弟対決も実現した。大会には優勝者がすべてのコマを「総取り」する決まりがある。寝る間も惜しんで完成させたせっかくの労作も、負ければ奪われ、研究対象にされてしまう。
そんな厳しい戦いで2人の快進撃を支えてきたのが、半導体製造装置の部品加工に使われるコンピューター制御の旋盤などだ。
土俵に接触するコマの先端部は、丸みの仕上がりがわずかに違うだけで動き方が変わる。軸やボディ、持ち手など、コマを構成するパーツをきれいにはめ込むには、100分の1ミリ単位でサイズを整える必要があるという。
軸の一部にバネを組み込み、自動車のサスペンションのような性能を備えたコマは、こうした精密な技術力のたまものだ。
「相手とぶつかった時の衝撃をこのバネで吸収し、はじき飛ばされずに土俵上に踏みとどまる。他社のコマにはない独自の機能です」と亮さんは胸を張る。
ただ、だからと言って安泰ではない。9日に都内であった「大田区特別場所」では、攻撃を仕掛けない相手の戦術にはまって敗退。互いに離れたまま、どちらが長く回れるかを競う持久戦の末に「自滅」したのだ。
「まだまだ失敗は多いですが、一つずつ克服していくことで自分の技術を高められる」と徹さん。