鉄道をテーマにした博物館のさきがけ、九州鉄道記念館(北九州市門司区)がこの夏、15周年を迎えた。展示を支える副館長は、30年越しの夢を実現させてJRに入ったという異色の鉄道マンだ。
「展示車両は私の人生そのもの。だから、毎朝磨くのです」。副館長の宇都宮照信さんは、そう話す。 鉄道ファンとして追いかけた蒸気機関車の「C59」。食堂車でコックを務めた寝台列車を引っ張っていた電気機関車の「ED72」。「14系客車」では、そのB寝台の隅の下段ベッドでよく仮眠をとった。
展示車両は9両。このうち機関車3両は自ら磨く。布でこすり、油を塗る。合計で3時間。
19歳のとき、鹿児島線を走る寝台特急「はやぶさ」の食堂車を見て、ひらめいた。「コックになれば、毎日乗れる」。食堂車を営む「日本食堂」に入り、夢は半分かなった。撮影も趣味で続け、九州を代表する鉄道写真家、鉄道マニアとして知られるようになった。
次の転機は、53歳。JR九州の幹部から声がかかった。「門司港駅のとなりに鉄道記念館をつくる。展示すべき資料を持っていないか」
やりとりしているうちに話は大きくなった。「専門知識を生かしてほしい。JR九州の社員になり、館長代理をやってほしい」。国鉄の採用試験に落ちてから30年以上の月日がたっていた。
記念館の個室には、個人的に集めた大量の資料がある。往時を伝える写真や駅の図面。「宇都宮なら大事にしてくれるだろう」と、引退した鉄道マンたちから託された。蓄積した知識と資料は企画展にも生かす。